失踪

小学2年生の頃に彼と出会った

 

彼は他校からの転校生で、物静かな子であった。

自己紹介は極めて端的で、どこからきたのか、自分の名前は何かを名乗って割り当てられた席に着いた。

午前のうちは、クラスの同級生たちもこいつはどんな人間なのかを探ろうとその子の周りに集まっていたが、あまり多くを語りたがらない子であることがわかった途端、いつも通りの雰囲気に戻り、転校生も物静かな子らしく1人で本を読んでいた。

 

私も当時孤立しがちな子だったため、そのタイミングでは話しかけられず、1人の頃合いを狙って軽い自己紹介をしてみた。

朝にも聞いた定型的な自己紹介をされ、彼はその場を去ったが、どこか彼に魅力のようなものを感じていた。

男性的な興味というより、何か珍しいものを見たかのような、家の近所で蛇を見つけたようなそんな気分だった。

 

今思えば相当異様な行為ではあるが、帰り道、私は彼を尾行していた。

当時、インターネットはまだメジャーな技術ではなかったため、小学生が人と遊ぶ際は決まった場所決まった時間に集まるか、家まで赴いて誘うかの二択であった。

彼は会ったばかりだったので、関係性を築くとすればまず後者であると考えての行動だった。

 

つまり勝手に着いていって勝手に家を特定した。

 

その週の末に彼の家へ虫網を担いで行き、遊びに誘ったが、彼は相当驚いた顔をしていた。

家を教えてないのにいきなりやってきて遊びに誘い始めたらそりゃあ驚くだろう。

渋々のってきた彼を連れて、身内の悪ガキどもの家を周り、5〜6人集めて、蛾を捕まえ、ネズミを狩り、人の家にロケット花火を打ち込んでいるうちに仲良くなった。

 

中学高校では、彼と保健の教科書を投げ合い、弓道場で踊り、5時間チェスを打ち、花火を改造して爆弾にし、ドブで火を焚き、相当色々やった。

 

どことなく彼とは馬が合うとも感じていたし、どこか人間性に惚れ込んでいたのもあったとは思う。

 

彼は高校を出て就職したが、私は進学だったため、ここで道が初めて別れた。

その時はLINEもあったので毎日のように話していたが、そこから彼はほんの少しずつ、本当に少しずつ変わっていった。

今たくさんの人と関わるようになって思ったが、彼の変わり方はどこかおかしかった。

おそらく職場に選んだ車工場の影響が強かったのだろう。

私も彼も東京に住んでいたが、彼が会いたがらなかったため、会えずにいた。

高校卒業半年後に、3月から動いていなかった彼のTwitterに突然川の写真をあげた際、危機感を感じて彼の家まで会いにいった。

 

やはり彼は驚いた顔をしていたが、そのまま外へ連れ出し、酒を飲んで、近況を聞き出した。

 

相当仕事と最近できた彼女の関係性に悩んでいたらしく、顔がやつれていた。

 

職場は慣れない体育会系の環境で疲弊しきり、彼女は病み気味だという。

仕事に関しては辛いとしか言わなかったが、彼女に関してはよく喋った。

ほぼ男まみれの学生生活を共にしたのできっと少し自慢したい気持ちもあったのだろう。

 

彼女とは職場で出会い、それなりに仲良くしていたが、向こうのアプローチで付き合うこととなり、そこから彼女の束縛癖が始まったのだと言う。

 

連絡は頻繁にしなければ鬼のように電話がかかり、関係を制限され、挙句教えてないのに家まで来るとか。

なんとも言えなかったが、「やべぇな」とだけ伝えた。

彼は頭を抱えて「どうすればいい?」と尋ねた。

私もそこまで経験豊富ではなかったので言葉に詰まったが、「とりあえず仕事辞めて引っ越したらいいんじゃないか。そうすれば家にも来ないだろ。関係性をまっさらにすんだよ。俺は除くなよ」

彼は一言「そうするわ」とだけ言った。

 

その日はそのまま解散となり、「またな」とだけ交わして帰った。

 

1週間後、彼が消息を絶った。

今現在においても消息はつかめていない。

 

最近旧友からも「彼のこと知らない?連絡先も全部消えたからわかんないんだよね」と連絡があった。

「最後に会った時メンヘラの彼女がどうのこうのっていってたからそのせいじゃねぇかなぁ。刺されてたりして」

「え?あいつ彼女いたの?結構話してたけど一回も聞かなかったぞ」

「俺だけに話してたのかな。シャイボーイめ」

「お前ら相当仲良さそうだからてっきり知ってるもんかと思ってたわ。まぁなんかあったら教えてくれや」

「わかったわかった。そっち彼の実家あるだろ?今度行ってみてくれや。うちのおかんが彼の母親と友達らしいから聞いとく」

 

後日母から「一応聞いてきたけどさぁ。話したくないって言われちゃったよ。一応生きてはいるみたい。こう言う時は関わらないのが吉よ。」と言われた。

生きてるのはよかったが、友人に連絡の一つくらいくれてもいいのになぁとは思った。

 

今現在も彼のことを探しているし、友人にも聞いているがやはり尻尾は掴めない。

 

たまに考えるのは、どうして俺にだけ職場でできた彼女のことを打ち明けたのだろうかということ。

彼は体育会系の職場と言っていた。そんな場所に病みがちの子が入るものだろうか。

色々な考えが頭をよぎるが本人がいないのでなんとも言えない。今彼はどこで何をしているのか。

 

 

 

 

 

 

彼にとっての関係性の悩みの種は私のことだったのではないかとふと考える瞬間がある。

銀座線新橋駅Summer Massacre

AM 7:30のアラーム

毎週日曜の夜は眠れないので大体睡眠時間は2時間ほど

 

今日の天気は晴れ、最高気温は38度らしい。

髪を流してタオルで拭いてヘアオイルを馴染ませる。

家を出て、朝とはいえ晴天で温まった空気の中で少し濡れた髪を乾かす。

中くらいの価格帯のヘアオイルの香りがふわっと香る。

 

むせかえる暑さの住宅街を抜け、冷気が漏れるJRの駅へ足早に入って電車に乗る。

目指すは赤坂。

東京上野ライン籠原行きは同じく通勤の学生社会人でごった返していて、ぎゅうぎゅうになりながらカロリーメイト食べ、片手間にKindleでよふかしのうたを読んだ。

最新刊の展開がすごく綺麗でよかった。

 

新橋駅について銀座線渋谷行きに乗り換え。

 

電車を降りると、真横を上野へ向かう新幹線が通り過ぎていった。

人の川が階下へと水のように流れ、水は改札で枝分かれし、銀座線丸の内線を目指して下へ下へと流れていく。

銀座線のホームは電車の熱と通勤電車に揉まれたスーツの戦士たちの熱で、ホームそのものが小籠包のせいろのようであった。

 

 

 

ホームが臭すぎる

 

 

 

あまりに臭い。改札ですでに臭い。納豆を山ほど食べて歯を磨かなかった朝みたいな臭さと、はちゃめちゃに朝練を頑張った高校サッカー部が全員制汗シートを忘れた部室みたいな臭いがする。

 

駅のエアコンはそんな納豆大好きサッカー部を吸い込んでは吐き出す、吸っては吐く、また吸っては吐く。

 

生物濃縮を知っているだろうか。

野生動物が毒を取り込んでそれを上位の捕食動物が食し、それを何度も繰り返して猛毒をつくりだす。有名な例だと野生のフグや牡蠣がそれに当たる。

 

新橋駅のエアコンは東京湾の生牡蠣になった。

猛毒を抱えたスティンクBボーイ。

気が効く彼らはサービス精神旺盛にその冷たい吐息を永遠吐き出してくれる。

もうやめてください熱波で死んだ方がマシだよ。

 

やばすぎる銀座線新橋駅のホームから銀座線渋谷行きの電車にやっとこさ逃げ込めた。

俺は鼻で息をすることを許された。

 

 

いや電車も臭すぎる

 

 

電車の中にも納豆サッカー部がいた。しかもホームの比じゃない。銀座線の中でインターハイが行われている。

それだけで終わればよかった。

 

私の身長は165センチである。

同年の男性からすると低めの身長、吊り革には手が届く。大体おっさんの平均が気持ち170センチくらいなのでおっさんの肩か肩甲骨の辺りに頭があることになる。

 

勘の良い方は気づくかもしれない。

満員電車、吊り革に捕まるだけでぎゅうぎゅうの車内、エアコンではインターハイが行われていて、周りのおっさんの平均身長は170センチ。

 

銀座線渋谷行き、納豆高校サッカー部3年生最後のインターハイ、青春のど真ん中、その生の熱気をおっさんの上半身から私の眼前へ直にお届け。DAZNを超えるリアリティをご照覧あれ。

殺してください。

 

新橋駅から赤坂見附駅まで3駅、時間にして約10分、本物の地獄がそこにあった。

10分後、私は地下の激臭小籠包せいろから釈放された。気分はショーシャンク刑務所のティムロビンス、大手を振って電車から脱獄。この際下水を泳いだ方がミジンコ2匹分ほどマシだっただろう。

 

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ティムロビンス「くっさ」

 

ただ私は釈放されたのだ。もうこんな地獄には来ない、このまま会社へスキップしながら豆乳飲んでいくのだ。

 

赤坂は青空が広がり、照り返すような日差しがビルのガラスに反射して容赦なく突き刺さる。

しかし彼の心は予定のない土曜の朝のように透き通っていた。

 

この時の彼は知る由もない。

隣のデスクにワキガ大魔神がふんぞりかえって周囲2mを彼の王国に変えてしまうことに。

無縁塚

私の母方の祖父母の住む地域には無縁塚がある。

 

塚の存在を知ったのは、私が9つの時に隣に住む祖父の兄弟が漁に出たきり帰ってこなかった年の祭事の時であった。

 

漁村ということもあり、仕事をしに海へ出てそのまま帰らない、という者は度々おり、浜にあがる誰だかわからない者を墓地の向かいにある塚へ納める。

祖父母の漁村は家で出るゴミすら浜で燃やすような小さい漁村で、知らない遺体が上がった時に警察を交えるのも面倒だという理由で塚に納めているという噂は聞いていた。

そういう理由もあってか、塚へ続く道は定期的に草が刈られていた。

お盆になると漁村では祭事(集団供養?)が行われ、港の作業場に簡易的な仏壇を設け、葬儀場での物とは別の、簡易的な供養を執り行っていた。

その年行方がわからなくなった者、直近で四十九日を迎えた者、三回忌を迎えた者の遺影が一枚、また一枚と増えていく。

しかし、帰らない者と帰る者の数が比例しないため、遺族は遺影と位牌を故人として弔う。

顔のある故人は家族の管理する墓地へ納められるが、そうでない者は空の墓に位牌だけが入り、それすらわからない余りは塚へ納められるそうだ。

 

地域性もあってか、若いもの達は次々に漁村を離れ、残るのは老齢の漁師達と少しの後継ぎ、そしてホームに預けられた誰かの祖父母たち。

私が18で上京するまで月に一回、車で2時間ほどの漁村に住む祖父母の様子を見に行っていた。

漁村から見る海が綺麗だったのもあり、祖父母をほったらかして良く堤防から海を見ていた。

数年ごとに家々は取り壊されて祖父母の家の周りは少しずつ見晴らしが良くなり、歳を重ねるごとに海がよく見えるようになったので少し嬉しかった。

 

私が6つか7つの頃、漁村の役所人が少しでも町おこしになればと地域の子供を集めてレクリエーションをする日、「こどものための日」を発案し、近所の海に面する一万平米ほどの公園を貸し切ってイベントをしていた。

私も弟と一緒にレクリエーションに参加し、漁村に住む10人ほどの子供達とビニールのボールでサッカーやドッジボールをすることになったが、年相応に楽しんでいた。

 

子供というのは不思議なもので、本当にすぐ馴染む。

顔も知らなかった子供達と手を繋いで駆け回り、役所が買ったお菓子を食べ、方言の強いどこかの子供とおしゃべりをし、ボールで遊んだ。

 

子供のうちの1人が、弟と近所の女の子と一緒になってアリを突っついていた私に聞いてきた。

 

「そっちん方じゃみんな何で遊んどっと?」

「最近はポケモンパールよ。友達はダイヤモンドもっちょるよ。」

「へ〜みんなゲームしちょるんね。みなとにはゲームセンターもないかい、ボールとヒトデしかないがね。タケルくんがゲームボーイポケモンしちょってやらしてもらったげな。おれも買ってもらいたいな〜」

 

ゲームのない地域は暇そうで嫌だな、と今覚えば子供らしい残酷で正直思いを隣にいた弟にぶちまけ、今度は私の方から漁村の学校での授業について尋ねた。

 

「今学校でなに勉強しとっと?」

「最近わりざんを勉強しちょるわ〜ぜんぜんわからんげな」

「僕わりざんはこないだテストで100点取ったよ!すごいやろ〜。今はしょうらいのゆめをグループでかけっていわれちょるよ。さかなつり好きだからじいちゃんにさかなつりのこと聞いてみんなで書こうと思っとるげな」

「へ〜さかなつりは楽しいな〜。おれは父ちゃんみたいに船に乗って海に行きたいな〜」

 

漁村の子供達は多くが県外へ出るが、一部の子供は跡継ぎとして海へ行く。

そうやって漁村は長くその地域性を育んでいた。

 

私が15になった夏に祖母が玄関先で頭を打ち、少し鼻先を切ってしまった。

それを皮切りによく祖母は転ぶようになり、その年の冬には認知症を発症してホームに入った。

17の夏に祖父と母と弟で、祖母の様子を見に行った。

自己紹介をしないと私と弟の名前を思い出してはくれなくなっていたが、祖父と母のことはしっかりと覚えているのか、仕事についてよく聞いていた。

 

「お父さんあんた最近も海行っとるんかえ」

「行っとるわ〜。金もねぇかい毎日でちょるけど最近のサワラはてげちっちゃいげな」

「ハル(母)は最近もスーパーで働いとるんね」

「もう3年前に辞めて今はうどん屋ってこないだ言ったげな!話したのもう覚えちょらんと?しっかりしてよ母さん」

「タクくんは漁師にはならんのね」

「魚は好きだけどね。東京の学校に行くことになったしナオ(弟)が継ぐよ」

「僕船事故らせる自信しかないから爺ちゃんに任せるよ」

 

祖母が元気だった頃の姿を知っている故に、言葉の端々がチクチクと刺さる。

私は祖母の様子を見にいくのが嫌だった。

 

その年の祭事に祖父と一緒に出かけ、私は祖父の仲間の漁師連中のビールを注ぐ係に任命された。

港の中に簡単に作られた横に長い仏壇、その列の端にあるビールサーバーと仏壇の前に敷かれたブルーシートの上に座る祖父と仲間達。

彼らに酒を運ぶのは意外と楽しかった。

祖父と仲間は声が大きかったので、ブルーシートから遠いビールサーバーの前でも話はよく聞こえた。

 

「今年の魚は痩せてていかんね」

「こんなに海に行っても痩せてちゃたまらんわ。酒代ばっかり減るげな」

「去年はイワシがよう釣れとったんに今年はどげんしたんかねぇ」

「サカイおじやんがこないだ200kgのクロマグロあげて新聞のっちょったけど、去年帰ってこんなって新聞も面白くなくなったわ」

「この飲み会も年々人が減って仏壇ばっかい増えますわぁ。タツ(祖父)さんももう年長ですし、引退してもいいと思いますよ。」

「俺が辞めたら誰がパチンコ屋にお小遣いやるんじゃ。酒も買えんごなるげなボケ」

「タク(私)はよビール持ってこんね。お小遣いやるから10杯作ってこい」

 

田舎のジジイどもの話は決まって酒とパチンコと死んだ仲間たまに相撲、そして必ず入る海の話。

小遣い稼ぎに何度も祭事には参加したがこれだけは変わらなかった。

漁村にとって海は生命線であり仕事場、まさに生死を共にする心臓のような存在だったのだろう。

 

19になる少し前、漁師の祖父が旅立った。

86まで現役で漁師を貫いた立派な人だった。

彼は港の船の中で倒れているのを仲間に発見され、そのまま病院に運ばれその日の晩に意識を取り戻したが、朝便所に立った時に再び倒れ、そのまま帰らなかったらしい。

 

漁の帰りに倒れたようで、船のいけすには魚が入っており、家のレンジには帰って食べようと思ってたであろうチルドの焼き鳥が入っていた。

漁のアガリは仲間が換金していたようで、葬儀の日に仲間が母に渡していた。

どうやらそのシーズン1番の漁価だったようで、仏間の奥に眠る祖父を仲間が「すごいすごい大往生や」と褒め称えていた。

 

通夜は賑やかだった。

私は父の勧めで葬儀の喪主に指名され、通夜に集まった大勢の漁村の仲間のお酌をしたり、通夜らしい話をした。

 

「お前のジジイはすごい奴だよ。船の上で倒れてたんだろ?しかも漁の帰りらしいじゃねぇか。ちゃんと帰ってこれてすげぇ奴だ。」

「あいつはよくやった。あんなサワラは久方ぶりに見たげな。」

「立派な奴じゃあ。前ん日までパチンコ打って焼酎飲んどったっちゃろ?しかも倒れたんは好きな船の上じゃろ。ええ締め方や。」

「おれも死ぬなら海ん上がええげな。家は嫁がうるさくてたまらん。」

「タク、せっかく爺さんの船があるんだ。お前も漁師になって海に出ろ。」

 

次の日、葬儀に移って各々が準備を進めていた頃、老人ホームのバンが葬儀場に到着し、車椅子に乗った祖母が施設の人に押されて入ってきた。

この時祖母は認知症がかなり進行しており、私との会話もままならない状態だった。

祖母は施設の人に抱えられて棺桶を覗き、少しを間を開けてオイオイと泣いた。

ひとしきり泣き終わった後、親族が「お父さんにお別れしましょ」「お母さん、最期に何か言ってあげて」と声をかけた。

祖母はゆっくりと話した。

 

「なんで先に逝ってしまった。おれは1人になってしまった。タツ、お前は海に行けたのか」

 

祖母はゆっくりもごもごと、振り絞るような声で祖父への思いを語った。

それを聞いた母は泣いていた。

 

私が喪主に指名されたのもあり、お別れの挨拶は私の担当だった。

実家から漁村への車の中で考えた2分ほどの別れの挨拶をしたところ、参列者から短いスピーチを褒められ、漁村の寺の住職も声をかけてきた。

 

「タクくん、スピーチよかったですよ。お爺さんも誇らしいでしょう。」

「いえいえ、式を進行してくださった住職様にはかないませんよ」

「私は自分の仕事をしただけですので。こんな漁村です。慣れてますし、意外と忙しいんですよ。」

 

40代入ったくらいの住職は最近先代から跡を継いだようで、一時期八王子の方の山で修行をしてたらしい。

私も八王子に一時期住んでたので話は弾んだ。

 

「お爺さんは信心深い人でした。一緒に寺に来てたお婆様が施設に入られてからも、1人仏間で拝んでおられました。」

「知らなかったです。てっきりあの祖父の事だからサボるもんだと」

「漁師において寺は大事な物です。人との交流の場にもなり、なにより仏様を拝めることは海の仕事に直結します。今回もそれがあって早く見つけてもらえたんでしょう。」

「そうでしょうねぇ。祖父も仏間に祀られる側になりましたし、私も行くことになりそうです。今後ともよろしくお願いします。」

「そうですね。ぜひまた来てください。そうそう、君は東京の方に住んでるんでしたよね」

「はい。今は学生ですけど追々神奈川の方で仕事する予定ではあります。」

「それがいい。あなたのやりたい事をしなさい。お爺さんが漁師だから跡を継がねばならないということはない。特に海は危険です。帰らない人も多い。本当に安全な仕事というのはあまりないですが、海に行って帰ってこなかったり、塚に入るよりはいいでしょう。」

 

おそらく住職は、人生の少し先輩なりに気を遣ってくれようと言葉をかけたのだろう。

海を仕事にする事を止めたのは彼だけだった。

 

私が23になる前の月、祖母が旅立った。

時期は祖父が旅立った時期とほぼ同じだったため、親族からは「お父さんの所へ行ったのね」「施設にずっといるよりいいげな、お父さんのところに行っておやり」など、祖父にまつわる話が多かった。

私は神奈川で仕事をしていたので、すぐに切り上げて葬儀場に向かったが、祖父の時と比べて親族は少なかった。

祖母は海に出る人ではなかったので、漁師仲間が少なかったり、友人は先に旅立ったか、施設に入っているため、葬儀に参列できない人の方が多かったのだろう。

私が仕事や、疫病の流行のため、しばらく漁村と祖母の施設に行けなかったのもあるが、久しぶりに会う面々が参列していた。

祖父の妹にあたる方が私に声をかけてくれた。

 

「タクくん久しぶりやねぇ。最後に会ったのはタツ兄さんの葬儀以来かえ。仕事はどうね」

「まぁまぁうまいこといっちょるよ。飯も1人で炊けるげな」

「あらぁ偉いねぇ。気付かんうちに立派になってからに、元気そうでよかったわ」

「婆ちゃんも逝ってしまったからに、もう墓参りくらいにしか帰ってこんかもしれんね。」

「それでええそれでええ。ミツ(祖母)さんも嬉しかろうて。こっちん方も人が減ってきて祭事もやらんなるかもしれんつよ。」

「そうなの?結構楽しみにしてたんに」

「そうよぉ。もう後継ぎも減ってね。墓もほったらかしんところが多いとよ。塚の方も最近は誰が管理してるんか知らん。」

 

確かに、母と一緒に祖父の墓を掃除しに行った時、いくつかの墓が草木で荒れていた。

私の方で他の墓は少し片付けたが、塚へ続く道は少し前と比べて草が生い茂っていた。

漁師が減ったり、町の方に新しい墓地ができたので、使う墓が減ったのだろう。

浜に流れ着いた遺体も、警察が引き取って町の方にできた集団墓地に埋葬されるようになったらしい。

きっとこうやって地方の墓や塚は死んでいくのだ。

 

タバコを吸おうと葬儀場の外にある喫煙所へ寄ったところ、葬儀に参列していた漁師であろう人が2人おり、話をしていた。

 

「今年はよく釣れるげな」

「湾の方でタイが網にいっぺかかったわ。ええ年や」

「そうそう、最近浜に人が上がったっつよ。しっちょる?」

「しっちょるしっちょる。こないだマサさんがおらんなったけど、あん人やろか。」

「いやぁ、もうわからんかった言う話よ。町ん方に納めようってなっちょったらしいけど誰かが塚に入れとけ言ったらしくて塚ん方入れたらしい」

「それがええげな」

 

祖母の葬儀は粛々と進み、お骨は祖父と同じ墓へ納めた。

墓の帰りに塚の方を少し見てみると、道の草が刈られていた。

 

住職か、土地の管理人がやったのかはわからないが道はすっきりとして車が一台通れるくらいの幅に整理されていた。

 

小さい頃から漁師のジジイの話を聞いてきたが、どうやら塚に誰かが入る年は漁価がいいらしい。

 

祖父母が旅立ち、使う人のいなくなった祖父母の家を片付けていた。

片付けが面倒だったのでこっそり家を抜け出して、港の祖父の船が係留されていたあたりを見に行ってみた。

祖父の船は仲間によって片付けられたと母から聞いていて、今は別の船が係留されていた。

一度だけ祖父の船に乗ったことがあったが、とても楽しかった。

もう一度祖父の船で沖へ出てみたかった。

今でも祖父の仲間に頼めば海へ行かせてくれるだろうか。

給与明細がハッキングされた話

みんな〜〜〜〜〜‼️セキュリティ強化って知ってる〜〜〜⁉️

お母さんに秘蔵のポルノ見られないためにみんな何かしら頑張るよね、それです。

 

うちの会社は給与明細は元々給与明細をクラウドにまとめて配置するスタイルだったんだ。

それの何が気に入らなかったのか知らないけどもっと上の奴らが「セキュリティ強化しようぜ‼️」って言い出してパスワード付きの外部の給与明細サイトでまとめられた感じになった。

 

わかりやすく言うと、今まではネット上のロッカーとかポストとかに定期的に届く感じだったけど、今後はポストじゃなくてどっかの会社の金庫に放り込むから取りに来てって感じに変わった。

 

半年くらい使ってたよ、有給とか税金とか見たかったしアホが変な理由ですっぱ抜いてたら困るから。

そしたらついこないだそのサイトにアクセスできなくなったんだよ。多分サーバー落ちてたと思う。

これも例えると、どっかの会社の金庫にある給与明細取りに行こうと思ったら入り口のシャッター閉まってて入れないって感じ、開けろよボケ

 

困ったから会社に「あの、見れないんですけど」って相談したら、「うちの会社のサービスじゃないから復旧待つしかないですね、、、🥺」って言われて、俺も優しいからじゃあ仕方ないかと思って2週間くらいほったらかしてたんだ。

2週間後に有給申請したかったから給与明細見に行ったら、まだサイト死んでんだ。

流石にふっざけんなよって思って会社に「まだ死んでるんですけど‼️‼️」って詰めたら驚きの回答が返ってきたよ。

 

「え?私見れてますけど」

 

いやいやいやいやいくら俺でもサイトを間違えるわけはない、Webサイトはこっちでマークしてたし、考えられるとしたらURL(いわゆる住所)が変わんない限りないだろ、って思ってた。

 

URLが変わってた。

 

「???」って感じだった。

理解が追いつかなくて、晩御飯考えあぐねてたのが一瞬でURLのことでいっぱいになるくらい「?????」な案件。

なんも聞いてないわよアタシ、最近の会社はホウレンソウもできないのかしら、困っちゃうわね。

 

まぁでも見れるようにはなったからこの話はここでおしまい、とはならない。

ムカついたから仕事しながら片手間に勝手にURL変えた給与明細作ってるアホ会社のこと調べてた。レビューを「💩」で埋め尽くしてやろうかと考えるくらいアタシピキピキだったんだから。

 

クラウド給与明細等のサービスを提供してるA社、ランサムウェア攻撃で大損害」

「A社、社内データ漏洩の可能性あり」

「利用者3000名に影響が発生した模様」

 

ネットニュースのトップを飾る知ってる会社。

私の大事な給与を守ってくれてる最高の会社。

知らないところでハッキングされてデータ入ったサーバー情報すっぱ抜かれたドち◯ぽ企業。

ランサムウェア攻撃は簡単に言うと「人質ハッキング」の一種、詳しくはググろう。読む分には楽しいぞ。

 

私の知らないところで私の大事な給与明細はどこぞのハッカーに人質にされて、交渉は決裂しデータ入ったサーバーはことごとく破壊され、私の雀の涙ほどの給与明細は広いネットの海へばら撒かれたのだった。

 

「みてみて!一般会社員の給与明細が流れてきたわ!ボーナスなしでこの給与なんて可哀想ね!」

誰でもいい、この際見られたことについては何も言わない。可哀想な奴もいたもんだとこんな感じの一言をメールしてくれ。送ってくれたやつ先着1名様限定でまつ毛全部引き抜いてやる。

 

詳細を読み解くと、ハッキングされたデータは捨て置いて、新しいサーバーでデータを復旧させたらしい、そのせいでURLが変わってたらしい。

 

おい‼️‼️‼️俺の雀の涙がネットの海にばら撒かれてるぞ‼️‼️まず謝ってよ‼️‼️‼️泣いちゃうよ⁉️⁉️23歳、恥で号泣するぞ

 

そもそもセキュリティ強化の観点で導入したシステムが半年くらいで突破されてあげく人質に取られるってどう言うことなんだ。

しかも会社まだそれ使う気なのかやめろよ。

 

俺の悲しい悲しい給与明細は今も広い広いネットの海を漂ってる。悲しいボトルメール。開けても特に面白くない情報の書かれたシークレット文書。

 

面白かったからここに寄稿する前に、同じ部署の上司(俺とは別の会社の仲良しさん)にちょっと愚痴っちゃったよ。こんなことがありましたトホホってね。

 

 

「そんなシステム使ってるんですか、初めて聞きました。面白いですね。」

 

 

データ漏洩したの俺だけだったっぽいよ

流行りに乗れなかった話

3年遅れで流行り病にかかったよ。コから始まるアイツ。

3年ひたすら流行りに乗らずアベンジャーズは見てないし好きなディズニー作品はバグズライフとWall-Eだしタピオカもマリトッツォも気づいたら流行ってなかった。

逆張りするのが好きなわけじゃないけど流行ってるメインカルチャーより人が少ないサブカルチャーの方が面白いでしょ?そうでしょ。今更話題にならない頃に掘り起こすんだよビンテージだビンテージ。

 

そんなことしてたらついにコから始まるあいつに周回遅れでかかった。

ちょっとウキウキすらしてたよ、だって死ぬほどヤベェって言われてるアレだぞ俺死ぬかもしんねぇなんかちょっとおもろいなって思ってドン引きする看護師相手にウキウキフェイスで今後の流れ聞いてたんだもん。

いよいよ薬もらって流石にしんどかったから寝たら次の日平熱になってやんの。会社とか友達に死ぬほど「かかっちゃった😢ツライ」とか連絡した次の日ほぼ良くなったわお医者さんあんた診断ミスったろ俺実はただの食中毒とかだったろ。確かに前日賞味期限1ヶ月前の卵で卵かけご飯食ったけど。

仕事は在宅だから、回復したし「復活しまーす」って連絡したら「あっ症状軽かったんですね😅」って言われたわ。疑ってんじゃねぇ医者がそう言ったんだ俺だって混乱したよ。

 

直会社休んで200本くらい映画見ようと思ってたさ、残酷で異常とか見ようとしてたのにどうしようもねぇよ

関係性が友達より薄い彼女に「コロナかかった」って一応報告したら1日じっくり未読無視されて「大丈夫?」って来たし大丈夫に決まってんだろなんて返すのが正解なんだこの場合。

なんなんだよお前も俺をじっくり寝かせるタイプか。

 

でも療養中にアベンジャーズは見ようと思わなかったし、旧作スパイダーマン未漁ってたから多分いろいろじっくり寝かせてあとから食べるタイプの人間なんだと思う。卵は早めに食べような。